蔵前仁一「テキトーだって旅に出られる!」
蔵前仁一の新刊「テキトーだって旅に出られる!」を読みました。が、正直、残念の一言。「ゴーゴーインド」の頃に放っていた輝きは、消え失せてしまっています。
バックパッカーのカリスマ
私たちバブル世代前後のバックパッカーにとって、蔵前仁一はカリスマです。「ゴーゴーインド」「ゴーゴーアジア」「ゴーゴーアフリカ」の3部作を夢中になって読み尽くし、海を渡ったのは私だけではないでしょう。
ご存じない方のためにいちおう書いておくと、この3冊は本当に素晴らしい作品です。旅行記史上に残る傑作です。
これらの作品に感激した私は、その後「旅行人」を購読し、蔵前氏の著作はだいたい読んできた私ですが、今回の「テキトーだって旅に出られる!」(産業編集センター)にはだいぶがっかりしました。海外旅行初心者に向けた実用書な一冊で、蔵前氏の体験を交えて書き下ろした本ですが、その体験談が、いまとなっては古くさい。
海外旅行のノウハウとしての新しさもないし、考え方もなんだか、古い。私が蔵前氏の本を読み尽くしているからかも知れないけれど、退屈でした。
蔵前氏には、実用書は向かないのかな、ともちょっと思いました。ガイドブック、いっぱい作っているはずだから、そんなことないはずだけれどな、とは思いますが。
私たちが旧世代に
蔵前氏の初期の旅行記は、それ以前の小田実や藤原新也らが描く、海外放浪的な重たい旅行記と一線を画した身軽さが新鮮でした。文字通り、今回の新刊のような「テキトーだって旅に出られる!」ということを実践し、私たちに伝えてくれました。
つまり、「テキトーだって旅に出られる!」は、30年前ならいいテーマだったかもしれません。が、いまとなっては古いテーマです。
時代は移り、蔵前氏がいまや旧世代なのでしょう。それはもちろん、蔵前氏より一回り年下で、蔵前氏に感化された私にも当てはまることです。
私たちが、旧世代になってしまった。
そんなことが感じられた一冊でした。