人生最後の分岐点となる話かもしれない
私には、年齢相応の形式的な役職はありますが、基本的にはただの平社員です。そんな私でも評価してくれる奇特な人がわずかながらいます。
その人をYさんと呼びましょう。Yさんは、とある専門性の高い部門の責任者です。
先日たまたまYさんと話す機会がありました。Yさんは定年間近で、2年後に関連会社へ役員として出向することがほぼ決まっているとのことでした。そして、自分の後任を探しているけれど、やらないか、という話をしてくれました。
いまYさんが担っている部門の責任者にならないか、ということです。この年齢で昇進話が回ってくるとは思ってなかったので、私はちょっと驚きました。
仮にその仕事を受けた場合、私はYさんの部署に異動して、2年後にその部門責任者になります。専門性の高い部署なので、責任者になったら、最低5年くらいは続けなければなりません。
さらに、Yさんの後を襲うなら、その後関連会社に出向して、役員になります。おそらくYさんは関連会社の社長になりますから、うまくいけば、私もその後釜で社長になれるかもしれません。私とYさんの年齢差は、後継者としては適度です。
話を受ければ、急に会社の出世街道に乗るわけです。人生最後の分岐点になるような話です。
ただ、実際のところ、私はその場で断ってしまいました。
断った理由は、その部門責任者の仕事を、私ができるとは到底思えなかったからです。
その部門は、専門性が高く、高度な脳みそも要求される仕事です。東大卒のYさんならともかく、私の知能ではとても対応できないことは目に見えていました。
Yさんは、私の能力を買いかぶりすぎているわけです。
自分の能力を超えた仕事を受けたときのプレッシャーを、経験したことのある人は多いでしょう。
私も過去にありますが、とにかくつらく、耐えがたいものです。
しかも、今度は責任者ですから、何かあっても誰も助けてくれません。複雑な問題が起きたとしても、すべて自力で解決しなければならないわけです。
当然、売上高や利益の責任もついて回ります。
そのプレッシャーにより、自分が成長できるという側面はたしかにあるでしょう。しかし、もはや私は、自分の成長よりも、心安らかな安定した生活を望んでいます。
そして、話を受けてしまった場合、私は部門責任者をある程度の期間はつとめなければならず、あと7~8年はサラリーマンを続けることになります。すると、私は50代後半になってしまいます。
私の勤務先は55歳で選択定年に達しますので、要するに定年まで会社勤めをすることになるわけです。
さらに関連会社に出向したら、60歳を超えることでしょう。定年オーバーまで働くことになってしまいます。
私のセミリタイアの時間は、どこかに消えてしまいます。
この話が、たとえば10年前にあったら、私は喜んで受けていたと思います。しかし、ちょっと遅かったですね。
何事にもタイミングがあるものです。
話を断ってから、少しの間、「よかったのかな」と考えました。
で、数日考えた結果、やっぱり断ってよかった、という結論になりました。
今の私は、「セミリタイアしたら何をしようか」ということでアタマが一杯だからです。
これから7~8年も会社勤めをするなんて、やっぱりイヤなのです。