国税当局による「富裕層の定義」がすごすぎる
「富裕層の定義」といえば、野村総合研究所による「純金融資産1億円以上」が有名です。でも、個人的には「資産1億円」を富裕層と呼ぶのは、ちょっと少ないのでは、と違和感を感じていました。
そこへ、日経が「国税当局による富裕層の定義」を報道。示された9つの定義は、腑に落ちる内容でした。
野村総研は5億円以上で「超富裕層」
どのくらいの金額を持っていれば「富裕層」なのか。これについては諸説ありますが、広く流布しているのが、野村総合研究所の定義です。
同研究所では、純金融資産、すなわち総資産から不動産などを除外した、いわゆる「流動性資産」から負債を引いた金額を尺度とし、1億円以上の世帯を「富裕層」としています。
野村総合研究所の世帯所得別階層分類
超富裕層:純金融資産5億円以上(7.3万世帯)
富裕層:同1億円以上5億円未満(114.4万世帯)
準富裕層:同5,000万円以上1億円未満(314.9万世帯)
アッパーマス層:同3,000万円以上5,000万円未満(680.8万世帯)
マス層:同3,000万円未満(4273.0万世帯)
出典:野村総研「日本の富裕層は122万世帯、純金融資産総額は272兆円」2016年11月28日より
これは純金融資産ですから、たとえば賃貸マンションに住んでいて1億円貯蓄がある人は「富裕層」。1億円の分譲マンションを保有していて貯金が1000万円の人は「マス層」に分類されます。なんかちょっと変ですよね。
野村総研は証券系の会社なので、金融資産にしか興味がなく、こういう分類になるのかもしれません。
ただ、野村総研の分類では、「超富裕層」が7.3万世帯、富裕層が114.4万世帯存在することになります。計算すると、全体の約2%が「富裕層以上」となります。
そう聞くと、上位2%なら富裕層と呼んでもいいかも、と納得してしまう部分もあります。
国税当局は「年収1億円以上」
さて、ここで、新しい分類方法が明らかになりました。日本経済新聞2017年12月1日付「国税、富裕層の税逃れに厳しい目」と題する記事です。
同記事によると、国税当局は「富裕層調査を担うプロジェクトチーム(富裕層PT)を全国に配置」し、「富裕層の税逃れを監視する体制を強化」しているそうです。
このとき問題になるのが、監視対象とする富裕層の線引きをどこに置くか、ということ。そこで、国税当局内で、「富裕層の定義」が示されたというのです。
国財当局による、「富裕層」の基準は次の通りでした。
国税当局による富裕層の主な選考基準
1 有価証券の年間配当4000万円以上
2 所有株式800万株(口)以上
3 貸金の貸付元本1億円以上
4 貸家などの不動産所得1億円以上
5 所得合計額が1億円以上
6 譲渡所得および山林所得の収入10億円以上
7 取得資産4億円以上
8 相続などの取得資産5億円以上
9 非上場株式の譲渡収入10億円以上、または上場株式の譲渡所得1億円以上かつ45歳以上の者
(日経2018年12月1日付朝刊より)
すごい、すごすぎる。
まず、「1」の「有価証券の年間配当4000万円」は、配当利回りを3%と仮定すると、実に約13億3000万円の純金融資産が必要です。野村総研の「富裕層」の定義の13倍、「超富裕層」の2.6倍です。これだけ持っていれば、そりゃもちろん文句なく富裕層でしょう。
「4」の不動産所得1億円以上というのもすごいですね。これは年間だと思いますが、「収入」ではなく「所得」が1億円以上ですから、不動産の時価総額は20億円は下らないと思います。やっぱりこれも富裕層で間違いありません。
「5」は年収ベースで、1億円ということです。ずばり年収1億円で富裕層、というのは、わかりやすい気もします。ちなみに、同紙によると、所得1億円超は約1万7000人いるそうです。結構いますね。
「9」は生前贈与をチェックする、という意味合いでしょうか。分類の目的が「富裕層の課税逃れを防ぐ」ものなので、こういう定義が入ってくるのでしょう。
いずれにせよ、これらの定義なら、当てはまる人は「富裕層」で全く問題ないと思います。野村総研の定義に比べてはるかに説得力があると思います。
同じ「富裕層」という言葉でも、野村総研のリストでは「金融商品を買ってくれそうな人」が定義され、国税庁のリストでは「脱税しそうな人」が定義されるわけですね。その意味でも興味深いです。