「裁量労働制は悪くない」と思うけど
裁量労働で十年以上働いている私ですが、もう二度と9時5時の固定時間制やフレックスで働きたいと思いません。裁量労働制が最高です。
何が最高か。
それは、「遅刻も早退もない」という点です。
朝何時に起きて、何時に帰宅しようが自由。
1日1度の出社義務はありますし、会議や打ち合わせなど、時間を合わせなければならない業務も多いですが、それでも、大枠として、遅刻も早退も気にせず暮らせるというのは、本当にラクです。
とくに、子どもが小さいうちは、急な病気で保育園に引き取りに行くこともできますし、裁量労働制のメリットを最大限享受できると思います。
「定額働かせ放題」なのか?
それは事実で、会社側からすれば、「いくら仕事をさせても残業代や総労働時間を気にすることがない」という仕組みは、悪魔的な魅力を持つことでしょう。
ただ、まともな会社なら、一人でこなせる量を大幅に上回る業務を割り振らないでしょう。割り振ってしまったとしても、「ちょっと仕事大変そうだね」と、管理職が配慮するものです。
問題があるとすれば、
こうしたまともな配慮ができる会社が少ない、
ということだと思います。
問題は制度ではない
ブラック企業は、裁量労働制を口実に、それこそ山のような仕事を割り振って、「裁量でこなせ」と無理難題をふっかけてくることでしょう。
でも、これは固定時間制でもフレックスでも同じことで、ブラック企業は勤務形態を問わず、無茶なことをするものです。
つまり、問題なのは会社の体質であって、勤務制度ではないのです。
ブラック企業はどんな勤務制度であってもブラックだし、ホワイト企業はどんな勤務形態でもホワイトです。
経営者と管理職の姿勢が問題
私が勤める職場はホワイトな方だと思いますが、裁量労働制で労働過多の部署はあります。鬱になる社員もいます。
ですから、会社すべてがホワイトとは言えません。
私の職場がホワイトなほうなのは、管理職がそれなりに配慮をする人間だからです。
逆に、私の会社でブラックな職場は、管理職が「24時間働く気持ちでいろ!」なんて会議で叫ぶそうです。
こう考えると、裁量労働制で生じる労働問題は、聞く限り、制度そのものの問題というより経営者や管理職の姿勢によるところが大きいです。
パワハラ大好きな管理職が、裁量労働という制度を都合良く解釈して、部下に無限に仕事を割り振ったり、むやみにプレッシャーを掛けて、つぶしてしまう。
そういうことが、実に多いと感じられます。
重ねて書きますが、これは制度の問題ではなく、管理職と、それを野放しにする経営者の問題です。
その管理職は、おそらく固定時間制であったとしても、同じようなことをすると思うのです。
裁量なんてあるのか?
裁量労働制の別の疑問点として、「果たして従業員に、裁量なんてあるのか?」という問いがあります。
午前9時に朝礼があり、午前中はずっと会議で、午後は少し外回りして、夕方に資料を作らされて、その日のうちに日報を提出する、なんてスケジュールが決まっている部署だったりしたら、そこに従業員の裁量はあまりありません。
私の場合は、いくつかのプロジェクトを並行して進めていて、それぞれに納期がありますが、納期までのアプローチは個人に任されています。
会議もせいぜい週に数回で、裁量を妨げるほどではありません。
その点では問題ないのですが、たとえば「採用面接をやって」と業務命令されたりすることもあります。
しかし、採用は私の業務範囲外ですし、達成ノルマと何の関係もない仕事です。
本来なら、これは裁量業務の範囲外だから、採用面接の時間(たいてい丸一日)には、別途残業代が支払われるべきだと思います。しかし、そうしたことはありません。
要するに、「裁量労働」といいながら「裁量の範囲」については、じつに曖昧なのです。
これが、日本の裁量労働制の最大の問題点だと思います。
裁量労働制を導入するなら、その裁量の範囲を労働契約書に明記させる、くらいのことをすべきで、契約違反にはペナルティが生じるようにしなければなりません。
そういう部分が経営側にぬるい制度になっているから、裁量労働制は、従業員側から信頼されないのです。
結局はカネ
裁量労働制を導入した会社で働く場合、従業員側が確認しなければならない最大のポイントは、裁量手当の額です。
この金額は、みなし残業時間から計算されますが、現実の想定残業時間に基づく残業手当より過小な場合は問題です。
「定額働かせ放題」と批判されても仕方ないでしょう。
一方、実際に想定される残業手当よりも過大な場合は、「定額働かせ放題」であることにかわりはありませんが、労働者側としては実質的な賃金アップですから、歓迎すべき部分もあります。
結局のところ、働く側からすれば、給料(裁量手当)が多ければ文句は減り、裁量外の仕事を命じられても「高い給料もらっているから仕方ない」と割り切って行えます。
しかし、手当が少ない上に、「裁量」の名の下に、なんでもかんでも仕事を振られたら、文句を言いたくもなるでしょう。
結局、カネです。
自分の経験からしても、「給料が多ければ耐えられる」ことはたくさんあると思います。
経営者が信頼されていない
裁量労働制そのものは、労働者にとって有利な側面もあります。
ただ、その導入にここまで議論が荒れるのは、結局、「経営者は裁量労働制を都合良く解釈するに違いない」という、労働者側の思い込みがあるのです。
その思い込みを作ったのは、経営側の責任です。
これまで従業員にたんまりサービス残業を強いてきたのですから、労働者が経営者を信頼できないのは当たり前です。
これからは「サービス裁量」を強いられるのでは、と労働者が警戒するのは、やむをえないことです。
一言でいえば、
日本の経営者は信頼されていない。
それに尽きます。
経営側が裁量労働制を導入したくても、なかなか受け入れられない状況があるとしたら。
それは、経営側の自業自得です。
労基法違反に実刑を
付け加えれば、日本の労働法制において経営者への罰則が甘い、という点も指摘できるでしょう。
労働基準法を破ったって刑務所に入るわけではないので、経営者は法を平気で破ります。
過労死で部下が死んだって、上司はまず罰金刑にすらならないのが日本の現実です。
この状態が放置される限り、どんな制度を導入しても、まともに法を守る経営者のほうが少ないでしょう。
裁量労働制を導入する前に、労働基準法違反の刑事罰を強化して、
社員が過労死したら社長が実刑食らう
くらいにすることが必要ではないでしょうか。
広まっていい制度だが
裁量労働制は広まっていいと、個人的には思います。
しかし、それにはやはり、上述のような経営者への違反罰強化と、「裁量」の範囲を経営側が無制限に広げることができないよう、歯止めをかける仕組みが必要だと思います。
また、入社間もない社員には、そもそも「裁量」の余地は乏しいので、少なくとも入社5年程度を経た社員のみ、などといった、制約もあっていいのでは、と思います。
長く勤めてきた私のようなおっさん裁量労働者は、制度を上手に使って、上手にサボって、上手にノルマをクリアしています。
そういう使い方ができれば、この働き方は悪くないと思うのですが。